ストレスとトラウマ(心的外傷)

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ストレスとトラウマ(心的外傷)とは

ストレスとは、カナダのハンス・セリエが提唱した概念で、外部環境(外的要因)からの刺激(ストレッサー)、もしくはそれに対する反応のこと。

ストレスによって、ウォルター・B・キャノンが提唱した防衛反応の一種である闘争・逃走反応(fight-or-flight response)などが起こるとされる。(緊急反応


外的な刺激(出来事)をストレッサー(ストレス要因)と呼び、それに対する心理的・生理的な反応をストレス反応と呼ぶ。(ちなみに、ストレス対処をストレスコーピングと言う。)

自己をどの範囲にするかによっては、生体内の刺激(慢性疼痛など)もストレッサーとなりうる。

ストレッサーは、心理学・生理学だけで用いられる用語であり、日常会話ではストレスがストレッサーとほぼ同義で用いられている。


トラウマ(心的外傷)とは、フランスのピエール・ジャネが提唱した概念で、外部環境(外的要因)からの極度の刺激、もしくはそれに対する反応のこと。

トラウマ(心的外傷)によって、スティーブン・ポージェス(ステファン・ポージェス)が提唱した防衛反応の一種である凍結反応・凍りつき反応(freeze response)などが起こるとされる。


通常のストレスとトラウマの違い(レジリエンス)

トラウマ(心的外傷)は、通常のストレスと違って容易に元に戻ることができない(レジリエンスが低い)。

レジリエンスとは、刺激に対する復元力であり、不調に対する回復力のことである。

ストレス反応やトラウマ反応は、その人の心理状態(どのように認知するかなど)や身体状態(疲れ度合いなど)で大きく変わる。


以下の表は、ストレストラウマ(心的外傷)を比較したもの。

分類復元・回復主な症状主な自律神経系主な防衛反応
ストレス
非トラウマ性ストレス
レジリエンス高い緊急対応
過緊張
強迫行為
交感神経系闘争・逃走反応
(fight-or-flight response)
トラウマ(心的外傷)
トラウマ性ストレス
レジリエンス低い解離(健忘、多重人格、離人症)
仮死(シャットダウン)
フラッシュバック
背側迷走神経複合体
(副交感神経系)
凍結反応・凍りつき反応
(freeze response)


トラウマ(心的外傷)やレジリエンスを説明する際に用いられるメタファーとしてしぼんだ風船(へこんだ風船)がある。

以下の図は、しぼんだ風船(へこんだ風船)のメタファーを説明する際に用いる画像の例。

心身に不調を来した人は、しばしば弾力を失うかのように柔軟性を失い、まるで紙風船のようにへこんだ状態が続いてしまう。

ストレスがゼロになることはないので、一度へこんでも元に戻れる健康状態(余裕のある状態)を維持し、トラウマ化しないことが重要となる。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Paper_balloon.JPG



セリエのストレス論(汎適応症候群)

ストレス(ストレッサー)に対して、生体はホメオスタシス(恒常性)を維持しようと働く。

ストレス反応は、ホメオスタシス(恒常性)によって起こる現象だと捉えることができる。


ハンス・セリエは、どんなストレス(ストレッサー)に対しても共通的に起こるストレス反応を、3つの症状・兆候(警告反応)と3つの段階・時期(一般適応症候群・汎適応症候群)で説明している。

以下のストレス反応は、ストレスに対して共通的に起こる代表的な3つの症状・兆候(警告反応)である。

  • 副腎皮質の肥大(糖質コルチコイドの内分泌)
  • 胸腺やリンパ節の萎縮(過剰な免疫反応によるショック死の防止)
  • 胃腸の炎症や出血(消化吸収の抑制)


このほかにも、心臓や血管など自律神経系に関わるさまざまな不定愁訴が、ストレス反応として現れることがわかっている。

また、マインドフルネスによって自律神経系の反応が抑えられることがわかっており、自律神経系を整えることで、ストレス反応を抑えることを行う。


以下の図は、一般適応症候群(汎適応症候群)の3つの段階(時期)である警告反応期(Alarm)、抵抗期(Resistance)、疲弊期・疲憊期(Exhaustion)を時系列で図示したもの。

警告反応期では、一時的に抵抗力が低下するショック相を経て、ストレスに抵抗する抗ショック相(反ショック相)に至る中で、先ほどの3つの症状・兆候(警告反応)が現れる。

  • ショック相では、一時的に抵抗力が低下する。
  • 抗ショック相(反ショック相)では、交感神経-副腎髄質系でアドレナリン・ノルアドレナリンが分泌されたのち、視床下部-脳下垂体-副腎皮質系(HPA軸)でコルチゾール(糖質コルチコイド)が分泌され、糖新生により肝臓でグルコース(ブドウ糖)が生合成され、エネルギー(ATP)が生み出される。

抵抗期では、短期的なストレスに対してホメオスタシス(恒常性)が維持されており、ストレス反応としての症状(兆候)は見られなくなる。(通常は数週間以上)

疲弊期(疲憊期)では、長期的なストレスに対してホメオスタシス(恒常性)が維持できなくなり、胃潰瘍、自己免疫疾患、慢性疲労症候群、自律神経失調症などに陥る。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:General_Adaptation_Syndrome.jpg


以下は、ハンス・セリエらの半生からストレス学説の誕生を描いた書籍『ストレスとはなんだろう』(杉 晴夫)。


ポージェスのトラウマ論(ポリヴェーガル理論)

自律神経系を3つに分類するポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)では、闘争・逃走反応(fight-or-flight response)に加えて、凍結反応・凍りつき反応(freeze response)の存在が示された。

凍結反応・凍りつき反応(freeze response)では、解離や仮死(シャットダウン)、フラッシュバックなどの心理的・生理的な反応が生じる。

ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)は、副交感神経の多くを占める迷走神経の系統発生的な分岐に着目しており、トラウマは身体に記憶される未完了の防衛反応(エネルギー)だと捉えられる。


ストレス・トラウマ関連の障害

ストレスに関連する障害には、以下のものがあるが、幅広い障害に関連している。

ストレス関連障害

  • 適応障害
  • 急性ストレス障害(ASD)
  • PTSD(心的外傷後ストレス障害)
  • 複雑性PTSD・発達性トラウマ障害


トラウマ(心的外傷)に関連する障害は、ストレス関連障害や解離性障害だけでなく、以下のように多く存在している。

ストレス関連障害

  • 急性ストレス障害(ASD)
  • PTSD(心的外傷後ストレス障害)
  • 複雑性PTSD・発達性トラウマ障害

解離性障害

  • 解離性健忘
  • 解離性遁走
  • 解離性同一性障害(多重人格障害)
  • 離人症性障害(離人症)

パーソナリティ障害

  • 境界性パーソナリティ障害(BPD)
  • 依存性パーソナリティ障害
  • 自己愛性パーソナリティ障害
  • 回避性パーソナリティ障害
  • 強迫性パーソナリティ障害
  • 演技性パーソナリティ障害
  • 反社会性パーソナリティ障害
  • 妄想性パーソナリティ障害
  • 失調型パーソナリティ障害(統合失調型パーソナリティ障害)

神経発達症・発達障害

  • 自閉症スペクトラム障害(ASD)
  • アスペルガー症候群(AS)
  • 注意欠陥・多動性障害(ADHD)

気分障害

  • うつ病(大うつ病性障害)
  • 気分変調性障害

そのほか

  • 不安障害
  • 摂食障害
  • 心身症


参考


関連する心理学用語

しぼんだ風船(へこんだ風船)

猫にくわえられたネズミ

首を引っ込めたカメ(甲羅に閉じこもったカメ)

ストレスコーピング

自律神経系

ホメオスタシス(恒常性)

PTSD(心的外傷後ストレス障害)

複雑性PTSD・発達性トラウマ障害

境界性パーソナリティ障害(BPD)

失感情症(アレキシサイミア)

離人症(離人症性障害)

自閉症スペクトラム障害(ASD)

ADHD(注意欠陥・多動性障害)

自律神経失調症

エピジェネティクス

防衛反応

ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)

闘争・逃走反応(fight-or-flight response)

凍結反応・凍りつき反応(freeze response)

定位反応(定位反射)

愛着障害

愛着(アタッチメント)

学習性無力感(学習性無気力)

心理的安全性

行動主義

新行動主義

S-O-R理論

第三世代の認知行動療法

マインドフルネス


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