学習性無力感(学習性無気力)とは
逃げ場のない状況で、何をやっても嫌悪刺激(ストレスなど)を受ける状況が続くと、逃避や回避に向けた試行錯誤などの自発的行動(努力)が行われなくなること。
逃げ場がないため逃避できず、何をやっても嫌悪刺激を受けるため回避できず、「何をやっても無駄だ」と感じてしまうようになる。
うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)と似た症状を示し、毒親の家庭で育った子供やブラック企業などの職場で働く大人などの抑うつ状態を説明することにも用いられる。
本人の努力だけではどうしようもない部分があるため、試行錯誤などの自発的行動を妨害している状況(環境)があれば改善する必要がある。
学習性無力感(学習性無気力)だけで抑うつ状態を完全に説明することはできないが、この考え方を知るだけで無意識に感じる罪悪感を外在化しやすくなる。
サーカスの象のメタファー
学習性無力感(学習性無気力)のメタファー(例え話)として、サーカスの象(鎖につながれた象)の話がある。
サーカスの象は、杭につながれた鎖で逃げられないことを小さな頃から学ぶため、大きくなって鎖を杭ごと抜く力を得ても、それを試そうともしなくなる。
これは、管理者によって管理しやすく教育されていることを表す。
以下の図は、サーカスの象(鎖につながれた象)のメタファーを説明する際に用いる画像の例。
この画像を見て、象は逃げられないと考えるのか、象の力なら逃げられると考えるのかが認知の違いである。
カマス理論のメタファー
学習性無力感(学習性無気力)のメタファー(例え話)として、カマス理論がある。
空腹のカマスを透明な仕切りのある水槽に入れ、反対側に小魚を入れると、何度も小魚を食べようと透明な仕切りにぶつかるが、いずれ何をやっても食べられないと学習する(あきらめる)ようになる。
その後、透明な仕切りを取り払っても、小魚を食べようとしないが、別のカマスを水槽に入れると小魚を食べるので、その様子を観察して、小魚をまた食べるようになる。
この話は、観察学習(モデリング)による学習性無力感の改善例である。
家庭における子供の学習性無力感(毒親)
逃げ場のない家庭環境などで、過干渉な親に厳しく支配されて育った子供は、成長して大人になっても親の言いなりになってしまいやすい。
これは、毒親によって子供が学習性無力感(学習性無気力)に陥ってしまう現象である。
いくら励ましても、本人は長年の学習で学習性無力感(学習性無気力)に陥ってしまっているので、それを消去するためには、嫌悪刺激(ストレスなど)のない安心安全な環境(心理的安全性)を作ることが必要となる。
職場における大人の学習性無力感(パワハラ)
同じ職場で働くような逃げ場のない状況で、何を言っても拒絶されたり、罰せられたりすることで、学習性無力感(学習性無気力)に陥ることがある。
このとき、試行錯誤によって一時的に行動レパートリーが増える(頑張る)が、そのあと学習によって行動レパートリーは減少していく(頑張れなくなる)。
一時的に活動量が増加するため、職場では叱責などが多用されるが、マネジメント手法としては低次のやり方であり、結局は生産性(パフォーマンス)の低下につながる。(俗に言うパワハラである。)
「うちの社員はすぐ危機感がなくなる」とぼやく経営者がいる。
そういった経営者は、パワハラ的なマネジメントを行っていることがある。
カマス理論で言えば、フレッシュな新人を採用することで、新しい風を吹き込み、学習性無力感に陥った人材の再活性化が行われる。
しかし、活発に改善提案や発言をする人は、それだけ無力感を学習することが多くなるため、学習性無力感に襲われやすい。
そのため、「言い出しっぺが損をする」、「出る杭が打たれる」などの環境のままでは、いくら人を入れ替えてもすぐに硬直化してしまう負のスパイラルとなる。
最近ではGoogle社の取り組みから、心理的安全性を確保することの重要性が叫ばれている。
これは、自分の言動に対して、拒絶されたり、罰せられたりする不安・恐怖のない安心感を作り出すことで、一時的な行動レパートリーの増加ではなく、持続可能な行動レパートリーの増加を狙うものだと考えられる。(人材面での持続可能性・サステナビリティとも言える。)
心理的安全性では、コミュニケーションが活性化するだけでなく、試行錯誤レベルでは活動量が増えることで生産性(パフォーマンス)の向上につながり、洞察(見通し)レベルではイノベーションの創出につながるとも考えられ、高次なマネジメント手法である。
個人でできる対処としては、逃げ場がなかったり、何をやっても叱責されるような職場でこそ、うまくサボること(逃避・回避行動)を身につけることなどが考えられる。
サボることが悪いことだと考えるのではなく、うまくサボることで学習性無力感を防止し、パフォーマンスを維持して貢献することができるのだと考える。
なお、闘争・逃走反応(fight-or-flight response)でいうと、まだ闘う道も残されているが、闘争には逃避・回避よりも気力(余力・エネルギー)が必要となることが多く、現実的な解決策にならないことが多くある。
どうしようもない場合は、休職などで環境を整えることも視野に検討する必要があるため、専門家のカウンセリングを受ける。
セリグマンの実験
ポジティブ心理学を提唱したマーティン・セリグマンは、学習性無力感(学習性無気力)について、犬を使った電気ショックの実験を行った。
2頭の犬を箱に入れ、片方の犬だけが電気ショック(嫌悪刺激)を止められるパネルが与えられる。
片方の犬が電気ショック(嫌悪刺激)を止めたときは、もう片方の犬の電気ショック(嫌悪刺激)も止まるようにして、電気ショック(嫌悪刺激)の程度を合わせる。
その後、2頭の犬を別の箱に入れ、ランプの光を合図に柵を飛び越えると電気ショック(嫌悪刺激)を避けられるように学習を行う。
このとき、自分で電気ショック(嫌悪刺激)を止めることができなかった方の犬は、柵を飛び越えようともせず(回避学習が起こらない)、電気ショック(嫌悪刺激)から逃げようともせず(逃避学習が起こらない)、受動的に電気ショック(嫌悪刺激)を浴び続ける。
以下の図は、学習性無力感ではない方の犬が柵を飛び越えて電気ショック(嫌悪刺激)を回避する様子。
セリグマンの実験では、犬を引っ張って無理やり電気ショックから逃げられる経験を繰り返し行うことで、学習性無力感(学習性無気力)から回復することがわかっている。
倫理的な問題から、これを人間に適用するのは困難だが、学習性無力感(学習性無気力)やトラウマに対して、成功体験を積み重ねることが回復につながることが考えられる。
オペラント条件づけ・道具的条件づけにおける行動レパートリーの減少
学習性無力感(学習性無気力)は、オペラント条件づけ・道具的条件づけにおける正の弱化と負の強化の関係から説明することもできる。
罰などの嫌悪刺激(弱化子)を与えて、ある行動を減らそう(正の弱化)とすると、実際には逃避・回避行動が増える(負の強化)ことがある。
しかし、逃げ場がない状況で、何をやっても罰を受けると、試行錯誤が減っていき(正の弱化)、何をやっても無駄だと学習することになる。(試行錯誤によって一時的に行動レパートリーが増えたあと、学習によって行動レパートリーが減少する。)
参考
関連する心理学用語
うつ病
PTSD(心的外傷後ストレス障害)
観察学習(モデリング)
認知行動療法
ポジティブ心理学
毒親
パワハラ
持続可能性
洞察(見通し)
闘争・逃走反応(fight-or-flight response)
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