公正世界仮説(公正世界信念)とは
この世界は公正だから、人の行いに対して、ふさわしい結果が返ってくるという考え方。
悪い人には悪いことが起こり、良い人には良いことが起こる、というふうに考える。
わかりやすくいうと、公正世界仮説(公正世界信念)は「因果応報」である。
「公正世界誤謬」とも呼ぶ。
公正世界仮説(公正世界信念)は、認知バイアスの一種とされる。
公正世界仮説(公正世界信念)のメリット・デメリット
もし世界が「因果応報」であれば、良いことをしていれば悪いことは起こらない、と自分に言い聞かせることができる。
このように、公正世界仮説(公正世界信念)は、心理的恐怖から逃れるための方策だとされる。
そして、心理的恐怖から逃れることが、良いことをしようとする動機づけ(モチベーション・やる気)につながる。
もし世界が「因果応報」ではなく、「運任せ」だとすると、不確実性に身を委ねるしかなくなる。
ただし、「因果応報」の考え方は、悪いことが起こった人に対して、その人の行いが悪かったのだと決めつけることにもつながる。
このように、公正世界仮説(公正世界信念)は、被害者非難や弱者叩きが起こる心理的メカニズムを説明している。
被害者非難や弱者叩き
例えば、交通事故の被害にあったドライバーに対して、不注意だったのだろうと決めつける。
実際は、不注意があろうがなかろうが、相手が飲酒運転で突っ込んできたのかもしれない。
例えば、いじめられた子どもに対して、自業自得なのだろうと考える。
実際は、その子どもは優しい心の持ち主で、良い行いがいじめっ子の鼻についたのかもしれない。
例えば、性被害の被害者に対して、その人にも隙があったのだと責める。(セカンドレイプ)
実際は、お酒や薬で意識を奪われたり、凍結反応・凍りつき反応を起こして抵抗できなかったのかもしれない。
公正世界仮説(公正世界信念)の具体例
例えば、「努力すれば報われる」と考える人が多い。
それが事実かどうかはわからないが、そう思い込むことで、努力を続ける動機づけ(モチベーション・やる気)が生まれる。
ただし、この考えが他人に向かうと、「努力しないからいつまでも負け組なんだ」などと決めつけることにつながる。
例えば、「良いことをすれば返ってくる」と考える人が多い。
それが事実かどうかはわからないが、そう思い込むことで、善行を続ける動機づけ(モチベーション・やる気)が生まれる。
ただし、この考えが他人に向かうと、「日頃の行いが悪いからだ」などと決めつけることにつながる。
公正世界仮説(公正世界信念)は、「自業自得」や「自己責任論」につながる考え方である。
ただし、この前提には、努力や善行を行った人が、必ず報われる社会が必要不可欠となる。
公正世界仮説(公正世界信念)を教える昔話・道徳
公正世界仮説(公正世界信念)を信じ込ませようとする昔話や道徳教材などが多数存在している。
例えば、『浦島太郎』では、亀を助けたら竜宮城に行けたが、約束を破って玉手箱を開けたら年老いてしまった。
これは、善行を賛美するとともに、約束を守ることを言い聞かせている。
例えば、『花咲かじいさん』では、傷ついた子犬を助けた爺さんは、「ここ掘れワンワン」と言われて宝を掘り当てるが、子犬を虐待した隣人は、ガラクタしか掘り当てることができなかった。
その後も、爺さんの善行と隣人の悪行が続くが、最後も爺さんは花を咲かせることができ、隣人は花を咲かせることができずに捕まってしまう。
これは、善行を賛美するとともに、欲をかくとしっぺ返しを食らうことを伝えている。
公正世界仮説(公正世界信念)の実験
被験者を2つのグループに分け、それぞれ以下のような話をする。
- A) 麻薬密売者が強盗に襲われた
- B) 一般人が強盗に襲われた
その後、以下の2つの報酬のうち、どちらを選ぶか聞かれる。
- 1) 今すぐ少ない報酬を受け取る
- 2) 将来より多くの報酬を受け取る
Aの被験者は、世の中は公正だという考えが強まり、2の報酬を選ぶ傾向がある。
Bの被験者は、世の中は公正ではないという考えが強まり、本当に受け取れるかわからない2の報酬よりも、今確実に受け取れる1の報酬を選ぶ傾向がある。
公正世界仮説(公正世界信念)と対応バイアス(基本的帰属錯誤)
公正世界仮説(公正世界信念)によって、帰属バイアスの一種である対応バイアス(基本的帰属錯誤)が説明される。
対応バイアス(基本的帰属錯誤)とは、外的な状況を無視して、人の内的な特性に原因を求めることである。
参考
関連する心理学用語
認知心理学
認知バイアス
正常性バイアス
アンカリング(アンカリング効果)
自制心(セルフコントロール能力)
衝動性
問題解決
コミュニケーション
第三世代の認知行動療法
マインドフルネス
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