凍結反応・凍りつき反応(freeze response)とは
アメリカのスティーブン・ポージェス(ステファン・ポージェス)が、ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)の中で取り上げた防衛反応の一種。
凍結反応・凍りつき反応(freeze response)はトラウマ反応として捉えることができ、解離や仮死(シャットダウン)、フラッシュバックなどの心理的・生理的な反応が生じる。
ポージェスは自律神経系を3つに分類しており、背側迷走神経複合体(背側迷走神経系)が凍結反応・凍りつき反応(freeze response)を司るとする。
恐怖条件づけなどでは「すくみ反応」とも呼ぶ。
短期的なストレスに対する反応としては正常だが、継続的なストレスに晒されたり、過剰反応するようになると、解離や仮死(シャットダウン)、フラッシュバックなどにつながる恐れがあるため、ストレスが取り除かれたあとは意識を取り戻す必要がある。
そのためには、身体的安全性や心理的安全性の感じられる環境(居場所・安全基地)を確保した上で、安全であることを身体感覚(内受容感覚)で感じ取れるように支援する。
凍結反応・凍りつき反応(freeze response)によって、性的暴行被害において被害者が無抵抗になってしまう心理的状況を説明することができる。
つまり、無抵抗がそれすなわち合意というわけではなく、生命の危機に瀕して心身が凍りついてしまったのだと解釈できる。
猫にくわえられたネズミのメタファー
凍結反応・凍りつき反応(freeze response)のメタファー(例え話)として、猫にくわえられたネズミの話がある。
ネズミは天敵に捕われるなどの生命の危機に瀕して、不動状態に陥る。これは、無理に可動して闘争・逃走反応(fight-or-flight response)を起こしてしまうと、さらに傷つけられてしまう可能性が高いため、生命維持のために合理的な反応である。
もし犬などの天敵に見つかれば、猫はネズミを離して身軽になって逃げようとするはずだから、その可能性にかけてトドメを刺されないように失神して死んだふりをした方がいい。
以下の図は、猫にくわえられたネズミのメタファーを説明する際に用いる画像の例。
この画像を見て、「やり返せばいいのに」とか、「逃げ出せばいいのに」と言う人は少ないだろう。
首を引っ込めたカメ(甲羅に閉じこもったカメ)のメタファー
防衛反応の一種である凍結反応・凍りつき反応(freeze response)や引きこもりの説明に用いられるメタファー(例え話)。
カメは天敵の襲来などの生命の危機に瀕して、首と手足を甲羅に引っ込めて不動状態になる。これは、無理に可動して闘争・逃走反応(fight-or-flight response)を起こしてしまうと、甲羅から出した首や手足を傷つけられてしまう可能性が高いため、生命維持のために合理的な反応である。
積極的に問題を解決することはできないが、時間とともに天敵は諦めてどこかに行ってしまうはずだから、それまでじっと待った方がいい。
以下の図は、首を引っ込めたカメ(甲羅に閉じこもったカメ)のメタファーを説明する際に用いる画像の例。
この画像を見て、カメは危機に瀕していると考えるのか、カメはもう安全だと考えるのかが認知の違いである。
ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)
ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)では、自律神経系を交感神経系・背側迷走神経複合体・腹側迷走神経複合体の3つに分類している。
同じく自律神経系の一種である腹側迷走神経複合体が、背側迷走神経複合体を調節することで、ストレスに対する凍結反応を静め、解離や仮死(シャットダウン)、フラッシュバックなどが起こることを防止する。
以下の表は、ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)の観点で、代表的な防衛反応をまとめたもの。
防衛反応 | 自律神経系 | 働き | 備考 |
---|---|---|---|
定位反応 定位反射 (orienting response) | 背側迷走神経複合体 (dorsal vagal complex) (無髄の迷走神経) | 不動 反射的 | 驚き 驚愕 |
凍結反応 凍りつき反応 すくみ反応 (freeze response) | 背側迷走神経複合体 (dorsal vagal complex) (無髄の迷走神経) | 不動 反射的 | 解離 仮死 |
逃走反応 (flight response) | 交感神経系 (sympathetic nervous system) | 可動 強迫的 | 恐怖 不安 |
闘争反応 (fight response) | 交感神経系 (sympathetic nervous system) | 可動 強迫的 | 怒り 抑圧 |
注意反応 持続的注意反応 (attention response) | 腹側迷走神経複合体 (ventral vagal complex) (有髄の迷走神経) | 律動 意図的 | 切替 分散 |
社会的関与 社会的交流 (social engagement) | 腹側迷走神経複合体 (ventral vagal complex) (有髄の迷走神経) | 律動 意図的 | 情動 安心 |
ガルシア効果・味覚嫌悪学習(味覚嫌悪条件づけ)
食べ物を食べたあとに体調不良(腹痛、吐き気、嘔吐など)を経験すると、同じ食べ物を食べようとしたときに嫌悪感が出て食べられない現象。
危険な食べ物を避ける生存本能だと考えられるが、通常の条件づけ学習とは異なり、たった一度の経験(試行)でも学習されてしまう。
このため、特殊なレスポンデント条件づけ・古典的条件づけだと考えられてきたが、ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)では、背側迷走神経複合体による凍結反応・凍りつき反応(トラウマ反応)だとされる。
継続的な試行によって学習されるストレスと、一回の反応によって学習されるトラウマの違いである。
参考
関連する心理学用語
PTSD(心的外傷後ストレス障害)
引きこもり
闘争・逃走反応(fight-or-flight response)
新行動主義
S-O-R理論
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