現在バイアス(現在志向バイアス)とは
将来の大きな利益(遅延報酬)より、目の前の小さな利益(即時報酬)を追ってしまうこと。(今すぐかが重要で、今すぐじゃなければどうでもよくなる。)
現在バイアス(現在志向バイアス)は、先延ばし(先送り)の心理である。
これは、現在の自分が未来の自分を売り渡す行為に例えられる。(まるで現在の自分と未来の自分が分離した別のものであるかのように。)
薬物依存、ニコチン依存、アルコール依存、ギャンブル依存など依存症は、長期的な視点よりも短期的な視点が勝ってしまうために起こると言える。
マーケティング手法としては、現在バイアスを逆手にとって、今だけお得なキャンペーンや、使ったその日の効果を訴求することなどが考えられる。
対処として、環境を整えようと考えると行動療法的だが、自制心・セルフコントロール能力を高めようと考えると第三世代の認知行動療法(マインドフルネス)が適していると考えられる。
現在バイアス(現在志向バイアス)は、双曲割引や時間的非整合性(動学的不整合性)とほぼ同じことを説明している。
満足遅延耐性
人は、将来得られるより大きな報酬(遅延報酬)のために、目の前の小さな報酬(即時報酬)を我慢して遅らせることもできる。
こうした現在バイアスに抵抗する力を、満足遅延耐性と呼ぶ。
満足遅延耐性は、自制心・セルフコントロール能力の一種であり、マインドフルネスを訓練するのも効果的である。(満足遅延耐性が低いことを衝動性とも表現する。)
薬物依存、ニコチン依存、アルコール依存、ギャンブル依存など依存症の場合、目の前の報酬を選択しやすい(満足遅延耐性が低い)傾向があることがわかっている。
マシュマロ実験(マシュマロ・テスト)
子供の現在バイアスを用いたテストとして、マシュマロ実験(マシュマロ・テスト)がある。
子供の満足遅延耐性が、大人になってからの成果に長期的な好影響を及ぼすことを示したが、その後の再現実験(追試)によって家庭の経済的背景の影響の方が大きいことが示されている。
時間割引率(時間選好率)と双曲割引
現在バイアスは、行動経済学では時間割引率(時間選好率)の問題として研究が進められており、双曲割引モデルで説明がなされている。
以下の図のように、時間割引率(時間選好率)が高いほど、価値(縦軸)が下がりやすい。(縦軸が価値、横軸が遅延時間。)
遠い将来なら待てるが、近い将来なら待てない(すぐ欲しくなる)ことが言える。
また、目の前の報酬には手が伸びてしまうが、すぐ手に入らない(アクセス性が悪い)報酬は比較的我慢できることが言える。
現在バイアスを避けるためには、報酬を遠ざけることなどが効果的で、そのためには環境面を適切に設計する必要がある。(ダイエットするならお菓子を家に置かない、睡眠の質を改善するなら家にはカフェインレスコーヒーしか置かないなど。)
金融教育としては、給与天引きの財形貯蓄や自動預金・自動投資などで毎月自動的に貯蓄・積立することで、衝動的な消費・浪費からお金を退避させることが重要である。
符号効果
人には将来の報酬を現在の報酬より割り引いて考える傾向があるが、将来の損失は報酬ほど割り引いて考えられないことがわかっている。
こうした報酬と損失の時間割引率(時間選好率)における非対称性を、符号効果と呼ぶ。
例えば、「得したい」と報酬的に考えてしまうと面倒になって先延ばし(遅延報酬)してしまうが、「損したくない」と損失的に考えると先延ばし(遅延損失)しにくくなることが考えられる。
即時強化(オペラント条件づけ・道具的条件づけ)
現在バイアスは、オペラント条件づけ・道具的条件づけにおける即時強化の裏返しであるとも言える。
現在バイアスは低次の心的能力による現象であり、満足遅延耐性は高次の心的能力による現象だと考えられる。
天使と悪魔のメタファー
現在の自分(短期的視点)と未来の自分(長期的視点)の関係を説明するのに用いられるメタファー(例え話)として、天使と悪魔がある。
天使と悪魔は、善と悪ではなく、長期的視点と短期的視点と考えることで、矛盾や葛藤を抱えやすくなる。
参考
関連する心理学用語
行動経済学
認知バイアス
正常性バイアス
アンカリング(アンカリング効果)
自制心(セルフコントロール能力)
衝動性
意思決定
第三世代の認知行動療法
マインドフルネス
コメント