自分の中の天使と悪魔(心の中の天使と悪魔)とは
自制心(セルフコントロール能力)と衝動性の説明に用いられるメタファー(例え話)。
多くの研究から、まるで現在の自分と未来の自分が分離した別のものであるかのように扱い、現在の自分が未来の自分を簡単に売り渡すことがわかっている。(後述)
現在の自分が未来の自分を売り渡すのが悪魔だとすれば、天使は未来の自分からのメッセージだと捉えることができる。
ちなみに、Angel(天使)は、Messenger(メッセンジャー)が語源である。
悪魔を堕天使とするのは、自制心が衝動性に屈した人間の姿を暗示している。
天使と悪魔のメタファーによって外在化することで、自己の心理をメタ認知しやすくなる効果が考えられる。
メタ認知はマインドフルネスを訓練するのも効果的なため、天使と悪魔などと共にお祈りが発展したのかもしれない。
天使と悪魔は、善と悪ではなく、長期的視点と短期的視点
天使と悪魔を、善と悪だと考えてしまうと、正しいか悪いかで考えてしまうが、何が正しいかは時と場合と文脈で流動的に変わるため、いつまでも答えが見つかることはない。
天使と悪魔を、長期的視点と短期的視点という2つの異なる視点だと考えることができれば、それは自分の中で起こる葛藤であり、矛盾であり、いつまでもなくならないものであり、悪魔ともうまく付き合っていくしかないと考えることができる。
以下の図は、ウェイト版タロットの大アルカナである「14 節制(Temperance)」と「15 悪魔(The Devil)」。
「14 節制」は調和や自制を表し、「15 悪魔」は堕落や誘惑を表す。
「14 節制」の天使は、杯(カップ)の水をこぼさぬように自制心を働かせている。池に普通のオノを落としたとき、あなたは金のオノを落としたと偽るだろうか。
もし誰にもバレないと考えたとしても、自分自身に隠すことはできない。自分の中の天使が、いつまでも罪悪感をささやき続けるかもしれない。(天使にも嫌なところがある。)
「15 悪魔」の魔王は、燃えさかる炎を手にとり、衝動性に火をつけようとしている。鎖につながれた小悪魔(小さな欲求)を解放しても、魔王(破滅的な欲求)までは動き出さないだろうか。
もし小さな欲求だけで我慢できたとしても、自分の中の悪魔がこうささやく。「一度我慢できたんだから、また途中でやめられるさ。」こうして、人は依存症や問題行動に陥っていく。(なんて人間らしい悪魔だろうか。)
薬物依存、ニコチン依存、アルコール依存、ギャンブル依存など依存症は、長期的な視点よりも短期的な視点が勝ってしまうために起こると言える。
対処として、環境を整えようと考えると行動療法的だが、自制心・セルフコントロール能力を高めようと考えると第三世代の認知行動療法(マインドフルネス)が適していると考えられる。
自制心(セルフコントロール能力)と衝動性
自制心(セルフコントロール能力)と衝動性の心理を説明している言葉は、数多くある。
現在バイアス、時間的非整合性、双曲割引は、人間の時間に対する心理傾向(特性)について、ほぼ同じことを説明している。
時間割引率、満足遅延耐性は、その心理傾向(特性)に対する能力としての自制心と衝動性について、ほぼ同じことを説明している。
現在バイアス(現在志向バイアス)
将来の大きな利益(遅延報酬)より、目の前の小さな利益(即時報酬)を追ってしまうこと。(今すぐかが重要で、今すぐじゃなければどうでもよくなる。)
現在バイアス(現在志向バイアス)は、先延ばし(先送り)の心理である。
時間的非整合性(動学的不整合性)
計画時に長期的な利益のための意思決定が行われても、短期的な利益と相反するため、実行時に計画と整合性のない行動をしてしまうこと。
多くの人は、短期的な衝動に逆らおうとすると多くの気力(余力・エネルギー)を消費するため、長期的な計画のもと環境面を適切に設計することが必要な対策となる。
時間割引率(時間選好率)と双曲割引
行動経済学では時間割引率(時間選好率)の問題として研究が進められており、双曲割引モデルで説明がなされている。
多くの人は将来の報酬を現在の報酬より割り引いて考えているが、その割引率が低ければ将来の報酬まで我慢することができる。
符号効果
人には将来の報酬を現在の報酬より割り引いて考える傾向があるが、将来の損失は報酬ほど割り引いて考えられないことがわかっている。
こうした報酬と損失の時間割引率(時間選好率)における非対称性を、符号効果と呼ぶ。
満足遅延耐性
人は、将来得られるより大きな報酬(遅延報酬)のために、目の前の小さな報酬(即時報酬)を我慢して遅らせることもできる。
IQなどの学力で測れない非認知能力で、自制心(セルフコントロール能力)の一種である。(満足遅延耐性が低いことを衝動性とも表現する。)
薬物依存、ニコチン依存、アルコール依存、ギャンブル依存など依存症の場合、目の前の報酬を選択しやすい(満足遅延耐性が低い)傾向があることがわかっている。
マシュマロ実験(マシュマロ・テスト)
これらの現象を用いたテストとして、マシュマロ実験(マシュマロ・テスト)がある。
子供の満足遅延耐性が、大人になってからの成果に長期的な好影響を及ぼすことを示したが、その後の再現実験(追試)によって家庭の経済的背景の影響の方が大きいことが示されている。
参考
関連する心理学用語
行動分析学
第三世代の認知行動療法
マインドフルネス
行動経済学
自制心(セルフコントロール能力)
衝動性
非認知能力
外在化
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