事前確率の無視(基準率の無視)とは
事前に知っている確率を無視して、後から出てくる確率にだけ注目してしまう心理的傾向。
「基礎確率の無視」や「事前確率の誤謬」、「基準率の誤謬」や「基礎確率の誤謬」などとも呼ぶ。
事前確率の無視(基準率の無視)は、認知バイアスの一種である。
事前確率の無視(基準率の無視)の具体例1
例えば、ある難病にかかる人の割合が、1000人に1人だとする。
その病気について、90%の正確さでわかる検査を行ったところ、検査結果は陽性だった。
これを真に受けると、90%の確率で難病にかかっている気がしてしまう。
正確には、検査の正確性(90%)の前に、難病の割合(事前確率)が0.1%であるため、難病にかかっている確率はかなり低い。
まだ納得できない場合は、計算してみるとわかりやすい。
10000人が検査を受けたとき、
- 実際に難病にかかっている人:10人
- 実際に難病にかかっていない人:9990人
このとき、検査結果が陽性になる人は、
- 実際に難病にかかっていて、検査結果が陽性になる人:10人×0.9(90%)=9人
- 実際に難病にかかっていないが、検査結果が陽性になる人:9990人×0.1(10%)=999人
合わせると、検査結果が陽性になる人は1008人だが、実際に難病にかかっている人は9人である。
したがって、検査結果が陽性の人で、実際に難病にかかっている人の割合は、9人÷1008人=0.0089(約1%)とわかる。
事前確率の無視(基準率の無視)の具体例2
例えば、以下の問題を考えてみてほしい。
ある町では、緑のタクシーが85%、青いタクシーが15%の割合で走っている。ある夜、この町でタクシーによるひき逃げ事件が起きた。目撃者が1人みつかり、その目撃者は『青いタクシーだ』と証言した。ところが、同じような状況下での目撃者の証言がどのくらい正確であるかを検査してみたところ、80%の正確さであることがわかった。さて、この目撃者の証言どおり、青いタクシーが犯人である確率は何%だろうか。
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この場合も、青いタクシーが犯人である確率は80%のように感じてしまう。
正確には、目撃者が証言の正確さ(80%)の前に、青いタクシーの割合(15%)が少ないのであるから、圧倒的に多い緑のタクシー(85%)を青いタクシーだと見間違えた可能性はかなりある。
まだ納得できない場合は、計算してみるとわかりやすい。
- 青いタクシーの犯行を目撃し、青いタクシーだと正しく証言する確率:15%×80%=12%
- 緑のタクシーの犯行を目撃し、青いタクシーだと誤って証言する確率:85%×20%=17%
したがって、青いタクシーが犯人だという証言が正しい確率は、12÷(12+17)=約41%とわかる。
2つの具体例まとめ
難病の検査の場合は、検査を受けるからには、疑われる症状があるのだろうと想像し、あとは検査結果だけだと考えてしまうのかもしれない。
実際には、検査結果の正確さ(確率)は、病気にかかっている人を陽性と判断するときだけでなく、病気にかかっていない人を陽性と判断するときにも影響する。
タクシーのひき逃げの場合は、目撃者が見たのだから、あとは目撃者の証言の正確さだけだと考えてしまうのかもしれない。
実際には、目撃者の証言の正確さ(確率)は、青いタクシーを青いと判断するときだけでなく、緑のタクシーを青いと判断するときにも影響する。
事前確率の無視(基準率の無視)は、代表性ヒューリスティックス(ヒューリスティック)によって説明される。
事前確率の無視(基準率の無視)への対策
事前確率の無視(基準率の無視)などの認知バイアスに対処するために、企業などでは批判的思考(クリティカル・シンキング)が取り入れられている。
また、そもそも自身の事前確率の無視(基準率の無視)の存在に気づくためには、自分の認知バイアスに気づくメタ認知が必要となる。
そのため、メタ認知を鍛えることなどを目的に、マインドフルネスを訓練することが広まっている。
参考
関連する心理学用語
認知心理学
行動経済学
ベイズの定理
認知バイアス
正常性バイアス
アンカリング(アンカリング効果)
自制心(セルフコントロール能力)
衝動性
意思決定
第三世代の認知行動療法
マインドフルネス
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