はじめに
私の興味の範囲に偏ってしまっている点はご了承ください。
徐々に増やしていきます。
トラウマ
発達性トラウマ障害のすべて
複雑性PTSD・発達性トラウマ障害について、研究者や各心理療法の第一人者などが寄稿したムック本。
取り上げる範囲は幅広く、簡易型トラウマ処理、ボディコネクトセラピー(BCT)、ホログラフィートーク、TFT(思考場療法)、ソマティック・エクスペリエンシング(SE)、自我状態療法(EST)、EMDR、ヨーガなど、現在日本で行われているトラウマケアがほぼ網羅されている。
ただし、ムック本であるため、内容は網羅的だが表面的になっているため、より詳しくはそれぞれ専門の書籍を別途読む必要がある。
トラウマ研究については、『身体はトラウマを記録する』。
TFT(思考場療法)については、『TFT 思考場療法入門』。
ソマティック・エクスペリエンシング(SE)については、『身体に閉じ込められたトラウマ』。
自我状態療法(EST)については、『自我状態療法ー理論と実践』。
EMDRについては、EMDR関連書籍。
ちなみに、 『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』とは内容がかぶる部分が多く、いずれもある程度の専門知識が必要となる。
身体はトラウマを記録する―脳・心・体のつながりと回復のための手法―
複雑性PTSD(DESNOS)・発達性トラウマ障害の研究者として知られ、発達性トラウマ障害を提唱したヴァン・デア・コークによる著書。
トラウマケアの手法として、EMDR、ヨーガ、演劇、マインドフルネス、ニューロフィードバックなどが取り上げられている。
ベトナム戦争をきっかけとしたPTSD(心的外傷後ストレス障害)の始まりや、長年見過ごされてきた家庭内におけるトラウマ経験への注目など、歴史的な経緯もよくわかるのが特徴。
現在は、戦争だけでなく、自然災害、犯罪被害、性被害、交通事故、家庭内暴力、虐待など幅広い出来事を対象としている。
心理学の専門書なみに分厚いが、内容は一般的な知識でもなんとか読めるような内容。
ただし、紹介されている心理療法は、日本ではあまり一般的でないものも含まれるため注意が必要。
トラウマケアについて知りたい人向けというよりは、トラウマに関する教養として読むのがおすすめ。
心的外傷と回復〈増補版〉
複雑性PTSDの研究者として知られるジュディス・ハーマンの著作。
ヒステリー研究による女性の性的虐待の存在否定、ベトナム戦争による男性のヒステリー症状(戦争神経症)の出現など、トラウマ研究の歴史が紐解かれる。
前半では、理論的なところだけでなく、トラウマサバイバーの感覚についても詳述されている。(一部、生々しい描写も含まれる。)
後半では、回復に向けた治療者との関係や安全の確立、トラウマの統合、日常生活への統合などについて、主にセラピスト視点で記述されている。(ただし、出てくる心理療法は少なく、情報は古い。)
女性や子供などの弱い者の立場に立った記述が多く見られるが、これまで性的虐待や家庭内暴力などが社会的に存在しないものだとされてきたことを強く訴えている。
世界保健機関(WHO)が発行する「疾病及び関連保健問題の国際統計分類 (ICD)」で複雑性PTSDが採用されたことで、戦争や自然災害以外の家庭内におけるトラウマに関わる潮目が変わりつつあるが、その流れを象徴する書籍である。
毒になる親
「毒親」という言葉を生み出したスーザン・フォワードの著作。
その内実は、ネグレクトであり、精神的虐待であり、身体的虐待であり、性的虐待である。
つまり、「毒親」とは言葉を変えただけで、虐待のことである。
日本では精神的虐待が一般には虐待だと認知されていないため、そうした社会的な啓蒙に一役買っている書籍である。
第一部では、精神的な虐待というものがどういうものなのか、毒親の生態について詳しく知ることができる。
第二部では、つらくても最後はトラウマに立ち向かうことを勇気づけてくれる内容となっている。
トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際
センサリーモーター・サイコセラピー(SP)を開発したパット・オグデンによる著作。
センサリーモーター・サイコセラピー(SP)はハコミセラピーを起源とした心理療法で、ボトムアップ(身体)とトップダウン(認知)を組み合わせて行うもの。
前半は理論で、三位一体の脳やポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)、耐性領域(Window of Tolerance)や愛着理論などについて書かれている。
後半は治療で、セラピスト視点でどう実践していくか、マインドフルネス、リソースの育成、成功・克服行動、日常生活への統合などについて書かれている。
安全を確保し、トラウマを統合し、日常生活で統合するという流れは、『心的外傷と回復』に書かれているものと似ている部分があり、そちらも合わせて読むとわかりやすい。
なお、本書冒頭のヴァン・デア・コークによるはしがきは、はしがきとは思えない長さだが、トラウマについてよくまとまっている。
TFT 思考場療法入門―タッピングで不安、うつ、恐怖症を取り除く
TFT(思考場療法)を開発したロジャー・キャラハンによる著作。
TFT(思考場療法)は、つぼのタッピングや眼球運動などを応用した身体志向の心理療法で、長い時間をかけなくても効果が出るとされる。
生まれたきっかけや発展の様子を描いた上で、目的に合わせたタッピングプロトコルを多く掲載している。
そのため、セルフヘルプに用いることもできないことはないが、ボディコネクトセラピー(BCT)などと比べるとかなり複雑な処理を行う必要がある。
なお、『TFT思考場療法臨床ケースブック―心理療法への統合的応用』は、TFT(思考場療法)そのものについてはあまり書かれておらず、ほとんど応用の話なので注意が必要。
ポリヴェーガル理論入門: 心身に変革をおこす「安全」と「絆」
トラウマにおける凍結反応・凍りつき反応(freeze response)などの説明に用いられるポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)を提唱したスティーブン・ポージェス(ステファン・ポージェス)による著作。
安全であると感じることの重要性、ソマティック(身体志向)やマインドフルネスな心理療法の必要性などについて論じられている。
自律神経系がメンタルに及ぼす影響を理解することができ、ストレスやトラウマに対する反応が正常なものだと認識することができる。
内容は対談形式になっているため、一般的な知識でも読むことができるが、全体像を理解するのは逆に難しいため、セラピストは『「ポリヴェーガル理論」を読む』などを読むことをおすすめする。
また、具体的なトラウマケアなどについてはあまり触れられておらず、多くのトラウマケアの土台となる理論を理解するためのものだと考える。
ポリヴェーガル理論入門: 心身に変革をおこす「安全」と「絆」
「ポリヴェーガル理論」を読む -からだ・こころ・社会-
トラウマケアを発展させたポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)について、深くマニアックに読み解いた著作。
分厚い上に、内容は多岐にわたり、読み解くためには脳科学・神経科学の知識も必要になる。
そういった前提知識のない人は、わからないところはどんどん読み飛ばすか、事前にこれまでのストレス理論などについて学んでおくと理解がしやすい。
なお、スティーブン・ポージェス(ステファン・ポージェス)の考えだけでなく、著者の考えもまじって書かれている部分があり、その点でも読者を選ぶ書籍である。
ただし、原著の論文はより難解で量も膨大になるため、素直に理解できないところや興味のないところは読み飛ばしながら、この本を読んだ方がいい。
ストレス
ストレスとはなんだろう―医学を革新した「ストレス学説」はいかにして誕生したか
ストレスという言葉を生み出したハンス・セリエを中心とした人物たちを描く物語。
ストレスが内分泌系・免疫系・自律神経系などに影響して、(1)副腎皮質の肥大、(2)リンパ器官の萎縮、(3)胃潰瘍などの症状が現れることを発見した。
今ではストレスによって体調不良になることが一般常識になっているが、当時は病原菌による感染症以外は病気として認められない風潮があったことなどがわかる。
ブルーバックスなので、気軽に読める長さで、内容も読みやすい。
からだの知恵 この不思議なはたらき
ホメオスタシス(恒常性)という言葉を生み出したウォルター・B・キャノンによる著作。
自律神経系である交感神経系と副交感神経系による拮抗した生理作用などについて理解することができる。
交感神経系によって起こるストレス反応として、闘争・逃走反応(fight-or-flight response)などについても論じられる。
最近では、自律神経系を3つに分類するポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)が認知されてきており、そちらではトラウマ反応として、凍結反応・凍りつき反応(freeze response)が論じられている。
そのため、ポリヴェーガル理論の関連書籍と一緒に読むと、自律神経系から見たストレスとトラウマについて理解がしやすい。
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